この本は、高尚と下世話の混在だけれど、森繫さんの話をひとつ。
・・・ずいぶん前だが、テレビを見ていると、森繁久彌さんが、やはり目の不自由な子供たちの前で、歌っていた。
「七つの子」という、童謡である。
「からす、なぜ鳴くの。からすは山に、かわいい七つの子があるからよ」と歌って行く。
二番は「山の古巣へ、行ってみてごらん」というのだが、森繁さんの表情が一瞬こわばった。舞台に出ていて、セリフが思い出せずギクリとしたような感じの顔だった。
なぜそんな顔をしたのかが、すぐにわかった。森繁さんは「まるい目をした、いい子だよ」という歌詞にぶつかって、困ったなと思ったのであろう。
しかし、歌は、わずかなタイミングのずれはあったが、「まるい顔した、いい子だよ」と歌われたのである。
著者の戸板康二さんは、歌舞伎が好きなので、そういう話も多いけれど、人前では憚られる話も載っている。
44年前の本で、久々に「薄い灰色っぽい」本でした。
新しい本を「白っぽい」といい、戦前の本を「黒っぽい」という。私が高校生の頃の本だから、当時にすれば、「白っぽい」のだが、44年経ったので、「薄い灰色っぽい」の仲間に入れていいのかなあ。しかし、中身は世間話だから、やはり「白っぽい」のかな。薄田泣菫の「茶話」、池田弥三郎の「日本故事物語」と比較すると、そりゃあ、「白っぽい」な。
9984は弱かったなあ。