長門銭広永様は難しい銭

もう当たり前だが、自民党は国民を幸せなど全く気にしていない。

アクセス数も減り上品になったので、懐かしんで再掲する

5年前の夏、学生時代からよく通った古本屋のじいさんが亡くなった。その頃の日記のような話。
 
 
安さんの顔
 
安さんは、相場師列伝の銀流しの安さんである。
学生の頃の林先生に相場を教えた相場師である。
お寺の二男で、寺の学校にも行ったけど、兵役が嫌で、召集を逃げたという。
どんな顔だろうと、想像するのだが、お寺の二男からは、植木等さんしか浮かばない。
植木等さんは、和尚さんの顔だったねえ。
焼鳥屋やラーメン屋の親父、和尚さんなどでググってみても、これかなあ、という顔に巡り合わない。
世話になった古本屋のじいさんの顔も全く違う。
歳を取り過ぎているのだ。
べらんめい調の話しっぷりには、しっかりした顎がよく似合う。
永六介さんは、饒舌だからねえ。
 
◆◆◆◆◆
 
日曜の台風の日に、母方の祖母の四十九日に行った。
もう20年も会っていない、とうに60を過ぎた叔父や叔母に会った。
不義理を続けた私を見つけた叔母が、
「あらあ、○○君」
と声を掛けてくれた。
私の知っている叔父は、学生運動の頃、北大での活動が過ぎて、
「獣医にしかなれなかった」
と言いながら、タバコを吸っていた。
小学生の私は、普段、目にしないタバコが珍しくて、
「ここまで吸ってよ」
と注文をつけると、叔父はがんばって吸ってくれたのだが、火は私の示した所まで行かずに暗くなった。
「頭がくらくらするから、できないよ」
と叔父は答えた。
そのふさふさの黒髪は失われ、地肌が見えるほどになっていた。
電気工事士になった三男の叔父は、20代の頃、私の父に、新築の家の配線工事を手伝わされた。
父は、電気工事のために、本業とは関係のない、●級(失念!)電気工事士の免許を取ったのだ。
その叔父も、三角の顔が丸くなり、大きな染みができていた。
どちらの叔父の顔も、安さんの顔ではないのだ。
 
◆◆◆◆◆
 
林先生は、息子さんと同じ世代の私のような者にも、敬語を使われた。
が、一度だけ、電話の向こうで、べらんめえ調の話しっぷりを聞いたことがあった。
新日鉄終値の操作をやってるような内容で、私には、理解できなかったのだが、憤ってやるかたないような雰囲気だった。
暢気な私は、ああ、江戸弁というのは、あんな感じなのだなあ、とその時思っただけで、株価の操作は、場勘に関わる大変重大事なことは、わかったのだが、それがどんな目的で、誰がやった事なのかは、知るすべもなかった。
田舎の商品会社で、ピンの注文は、呑みようがなかったし、場勘の処理が面倒だったのだろう、
客の注文に向かい玉を立てて、市場に出していた。
新聞の取り組みに、「1-1」なんて載っていたのである。
ストップでも、新人のセールスが
「おめでとうございます。抽選に当りました!」
なんて言ってくれたけれど、少しも嬉しくなかった。
林先生の顔は、勿論、安さんの顔になり様がない。
 
◆◆◆◆◆
 
古本屋のじいさんに、
「岡□(市)の桃□(書房の店主)さんて、どんな人だったの?」
と聞いたことがある。
「ああ、あの人は、学者だったなあ。おいらなんか、学のねえ、どうしようもない野郎だけんどよ、
あの人は、大学を出たと思うよ。いろんな難しい事を調べて原稿を書いてたよ」
と話す、あごの丸くなったじいさんの横顔を見ながら聞いていると、その顔は、歪み始め、次第に電球の光に潰れてしまった。
私は、夢を見ていたのだ。
「おらあ、もうすぐ死ぬだ。本当に、こんなつまらん本屋によく来てくれたなあ。最後の始末まで付けてくれて悪かったなあ。」
そんな声が、夢から覚めてからも、確かに聞こえたような気がした。
 
◆◆◆◆◆
 
気味が悪くなって、朝の5時だったけれど、じいさんに電話をかけると、10回程鳴ってから、じいさんが出た。
「もしもし、○○書店です」
聞き慣れたじいさんの声がした。
「俺だ。●●だ」
「おおう、なんだ?」
「今日、行っていいか?」
「いいよ、こんだあ、俺がおごってやるだあ」
「もったいないから、そうめん茹でてやるよ」
……
実は、死んだ母に、最後に作ったのが、そうめんだった。
そのことに、電話を切る時、気付いたのだが、
”まあ、大丈夫だろう”
と思って、受話器を置いた。
 
これで、私の話は、お仕舞いです。
 
株価の本は、豊田市古書店で出たのです。安かったよ。
 
出ましたら退けときますと古本屋
 
出て良かったよ。
名古屋の本屋に電話を掛けてみようかなあ。
老齢のさんちゃん本屋は、日本の古本屋などのネット古本屋に登録しないのです。
地場をまわると、掘り出せる時があるのですが、市に出ないような本屋には出物が少ない。
「株をやってたじいさんが亡くなって、処分される時しか出て来ない」
ってね、豊田の本屋さんが言ってたよ。
「□□さん、運が良かったよね。本はねえ、巡り合わせなんです。人とおんなじなんですよね。
でもね、努力しないとね、巡り合えませんよね。
私らだって、迷ったら、熱心な方へ回しますからね。
□□さんみたいに、古書店回って、探求書一覧の紙を1枚置いてくるだけで、違うでしょう。
半年や一年じゃあ、結果は出ないけどね。
三ちゃん本屋だって、10軒まとまれば、大きな本屋以上の力が出る時もあるからねえ。」
若い本屋さんは情熱があって、良い。
 
猫師匠が、資本に喰われて目も当てられない初心者さんにまた相場塾を開いた。林先生も一家離散、心中など悲惨な例を書かれているからね。アメリカが降参したベトナム戦争レジスタンス養成組織だな。