以下の件が、まずいのでしょう。
川島家・茶の間と座敷(夜)
茶の間が6畳。
座敷が8畳。
茶の間でテレビを見ながら酒を飲んでいる父親。
労働者風。
座敷で布団の上に寝間着で横になっている川島。
その横で枕カバーを替えている母親。
川島の声「今考えると、よくあんな事頼めたもんだと思うけど、その時はすごくせっぱつまった気持だったし、俺は稼ぎやたら少なかったし、親父は、厄介者の俺が嫌いで口きかなかったし、お袋に頼むしかなかったんですよね」
川島「(目をつむっていて)お母ちゃん」
母親「うん?」
川島「俺、一遍でいいから、トルコに行ってみたいんだ」
母親「トルコって、外国の、あの」
川島「そんな所へ行きたがるわけないじゃないか」
母親「じゃ、あの、なにかい?」
川島「きまってるだろ」
母親「ー(見ている。テレビの音、止る)」
川島「俺、女にもてっこないだろ。嫁さん来ると思う?一遍だけでいいから、ああいう所でもいいから、女の人とつき合ってみたいんだよ」
母親「ー」
川島「一生、女なんか、縁ないかもしれないもんな」
父親「ー(後姿で黙っている)」
母親「ー」
川島「(目を閉じている)どうなの?黙ってるんだね。俺だって、金がありゃあ、お母ちゃんに、こんな事、頼みやしないよ」
母親「行っといで(とせきこむように言い)いいよ。行っといで。いくら、ぐらい、あったらいいんだい?」
父親「三万か四万やっとけ」
母親「え?」
川島(目をあける)
父親「(後姿で)三万か四万やっとけ。いいか。けちるんじゃねえぞ。チップははずむんだぞ」
母親「だけど、そんなお金」
父親「バカヤロウ。その位の金、俺が、どうにだってすらあ」
川島(天井を見ている)
母親(目を落とし、うなずく)
父親「ーどうにだって、すらあ(と小さく言う)」
トルコ街(夜)
川島、車椅子で行く。
川島の声「翌日の晩、お袋が下から上まで新しいもの着せてくれて、金は四万五千円も持って、出掛けたんだけどね、車椅子は駄目だって言うんだよ。何処へ行ってもころんだりして事故があったとき、責任持てないって断られて、結局、ウロウロしただけで、十一時すぎにね、家へ帰って来たんだけど、断られたなんて、言いたくなくてね(ナレーション終わっても、絵はしばらくあって)」
川島家・玄関
川島「(ガラッとあけ)ただいまッ!(と明るく)ハハハ、ハハハハハハ」
母親「お帰り(助けてあげようとして)やだよ、この子は、ゲラゲラ笑って(と土間へおりる)」
川島「そりゃあ、そうだよ、やっぱりさ、おかげさまでさ。ハハハ、フフフ(顔が歪み)行ってよかったよ。よかった(と泣き出してしまう)」
母親「敏夫ー」
父親「(現われ)どうした?」
川島(ワーワー泣いている)
川島の声「考えてみれば、こんなこと普通の親子じゃないよね」
こんなシナリオです。
書いていても悲しくなるシーンです。
山田太一シリーズ『男たちの旅路』より「車輪の一歩」 名場面集 - ニコニコ動画 (nicovideo.jp)
がんばって、打ってはみたものの、動画の中にありました。
8:12あたりからですが、始めからどうぞ見て下さい。
川島:斎藤洋介さん
母親:五月晴子さん
父親:井上和行さん
の演技もすごいねえ。